『セルフもっとサテライト 2018初秋』
アーティストトーク
■目次■
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■ 『セルフもっとサテライト』が立ち上がったきっかけ
■ 表良樹『地を仰ぐ|Gazing up the Earth』
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■ 小保方裕哉『PHASE DUCT』
■ 冨川紗代『Our Basic Common Link』
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■森山泰地『東京濕地物語 —TOKYO WET AREA STORY』
『セルフもっとサテライト』を通して感じたこと
藪前:
以上でまずはこちらにいる作家6名のお話と、途中で菊地さんから今回の企画の経緯もお話いただけましたが、ここからはもう少しくだけた形で、実際にこの企画をやってみた皆さんの感想を聞ければと思いますが、菊地さんはどうですか。
学生時代はグループからは外れて単独行動をすることが多かったので、こうしてみんなに声をかけてまとめるというのは新鮮な経験でしたね。
去年この近くの住吉で『BARRACKOUT(バラックアウト)』という若手のアーティストたちが古い家を使ってアートプロジェクトをしていたのですが、このプロジェクトでは、エリアのリサーチを徹底的にして、地域の歴史などを踏まえて作品を提示するということをしていましたが、一方で今回の『セルフもっとサテライト』はそこから一線を画すというか、潔いまでに清澄白河の地域としての文脈は汲んでないですよね。(笑)
『BARRACKOUT』http://barrackout.tokyo
僕の出身が千葉の津田沼なのですが、方向音痴ということもあって、行き方を覚えたところはもう自分にとっての津田沼にしてしまう、という自分ルールがあります。(笑)なので、今回の企画を通して清澄白河も自分の津田沼になりました。
今回の企画のテーマを他の作家のみんなに共有する際に、以前開催した『尊景』展でも同じだったのですが、あまり展示を行う土地の事柄を作品に取り入れるようには伝えていません。それは、去年粟島でレジデンスをやってみて、僕自身が地元から何かを汲むというのが得意ではないということに気がついたからというのもあります。土地のことを考えることで、制作をする上での制約が生まれ、それが作品の面白さにつながることもあるとは思いますが、僕自身は不自由さを感じることもあって。地域に根ざしたレジデンスや展覧会は最近多いので、そういう風潮をかわすという意味でも、土地の特性というのはあまり考えずに制作してもらっています。ただ、展示の場所と作家の相性はあるので、下見や打ち合わせをする中で作家と会場の方とすり合わせてもらっています。例えば清洲寮にあるMelt Meriさんでの展示に関しては、空間を見たときに面白いなと思ったのと、小保方くんの作品が合うなと直感的に思って決まりました。
今お話ししていた部分は菊地さん自身の制作の根幹に関わることだと思います。「領域侵犯/介入」というのが菊地さんの作品の根底にあるもなので、先ほどお話にあった「津田沼を広げていく」のはある意味菊地さんのコンセプトから考えると正しい行為なのかなと思いますね。(笑)
なので、菊地さんの表現によって何か地域で今やっているプロジェクトをひっくり返すような、より地域を活性化するような何かが生まれればもっと良いのかなと思いました。
今回は他の作家をまとめるところまでで、キュレーションは僕の専門ではないですが、今後はそういう領域で何かもう少しできればいいなとは思いますね。
今回のプロジェクトは企画が菊地さんで主催がKANA KAWANISHI GALLERYとしているのですが、作家のセレクトや作家と会場のマッチングという点で、菊地さんのバランス感覚ってすごく鋭いなと私は思いました。菊地さんのアンテナに引っかかったものは、その通りにしたほうが何かといい方向に向かうんですよね。
あとは、今回ご一緒して感じたのは菊地さんの人柄の良さですね。先ほど藪前さんから「領域侵犯」というワードがありましたが、領域を犯しながらも作品にはネガティブな要素があるわけではなくて、どちらかというとクスッと笑えるようなものだったり。そういうところが菊地さんの良さであり、それがあるからこそ他の作家さんが自信を持って気持ちよく展示ができるのかなと思います。
せっかくなので、菊地さんが清澄白河のどこかで撮っても良かったのにと思いますが。
それが、今回新作として発表している《Jade》シリーズの一部として清澄白河でも撮影するんですよね。
もし良かったら、うちの美術館(東京都現代美術館)は今工事中で誰も入れないですけど、登っていただいたりしてもいいですね。(笑)
おお、いいですね!
冗談です。(笑)
(笑)
もう下見はすでにしていますので。(笑)
会場:
藪前:
藪前:
藪前:
河西:
河西:
河西:
河西:
菊地:
菊地:
藪前:
菊地:
菊地:
森山泰地『東京濕地物語 —TOKYO WET AREA STORY』
ここで突然ではあるのですが、この会場である喫茶ランドリーさんで展示をしている森山泰地さんが実は今台湾で開催されるランドスケープアートの芸術祭『MIPALIW Land Art 2018』での滞在制作のために台湾の現地にいるのですが、インターネット通話でつなげたいと思います。
こんにちは!
そちらはどうですか?今回はどんな作品を作られたんですか?
雨の中芸術祭のオープニングをやっています。作品は、1メートル四方の大きなレンズを田んぼの中に設置して、日中は日の光がレンズを通ることでその田んぼが燃える、というものです。
河西:
森山:
森山:
河西:
『MIPALIW Land Art 2018』展示風景
《時空焦距/Focus of time and space》© Taichi Moriyama
河西:
森山:
河西:
森山:
藪前:
『MIPALIW Land Art 2018』ウェブサイト(中国語)https://www.mipaliwlandart.com
すごく大掛かりですね。それは会期中に燃えるという予定なのでしょうか?
太陽の焦点が合うと燃えるので、今日の日中にはもう燃えましたね。
その作品はそのまま放置しているのですか?
そうです。鉄の構造を作って、3mくらいの高さの所にレンズを固定してあります。
なるほど。今回喫茶ランドリーさんで展示している作品にご説明いただいてもいいでしょうか?
『東京濕地物語 —TOKYO WET AREA STORY』展示風景
河西:
森山:
河西:
そもそも、この喫茶ランドリーさんにはカフェのスペースとドアで区切られた「家事室」があって、ここには洗濯機やミシンなどがあって、近隣の方々が洗濯など家事をしに来られるんですよね。今回は森山さんの作品をこの家事室内で展示しているわけですが、当初は、ここで展示するのは少し難しそうとおっしゃっていましたよね。
そうですね、はじめは難しいなと思っていました。
私と菊地さんの考えでは、この企画にはぜひ森山さんに参加していただきたくて、去年の粟島でのレジデンスで制作した、島の海辺にあった漂流物の冷蔵庫を使った《龍神自動販売機》については私自身が実物を見たことがなかったので、ぜひ東京で展示してもらえたらと思っていたのですが、こちらに下見をしに来た時は顔を曇らせていましたよね。
《龍神自動販売機》
2017 | refrigerator, neon, marine litter | ©︎ Taichi Moriyama
森山:
河西:
森山:
河西:
元々、飲食店や別の目的で使われている商業スペースでの展示はやらないようにしていたのですが、今回の場合はこの家事室が面白いなと思っていたので、このような展示ができました。展示室ではあるんだけれども、本来の家事室としての機能はそのままで、実際にいつも通り家事をしにくる人たちもいる、というこの二つの空間の機能がクロスする感じが面白いなと。
この冷蔵庫の中にあるペットボトルなどは表示された金額(50〜300円ほど)を入れれば持って帰っていいんですよね?
そうですね。冷蔵庫に入っているものは全て海岸で拾った漂流物などです。それらに自分のサインやちょっとしたペイントを描き加えています。表さんの小さい作品も紛れていますが、これがもし売れたら僕が半分マージンもらう予定です。(笑)
洗濯機の上に載っている映像作品はどういうものでしょうか?
《Endless Water》
2018 | video | ©︎ Taichi Moriyama
森山:
河西:
台湾で撮影した《Endless Water》という作品なのですが、ペットボトルの中から延々と水が流れるというものです。なおかつこれは、自動販売機の作品とテーブル上の水槽の作品をつなげる存在になる作品です。
なるほど。水槽の作品は?
《homo aquarium》
2018 | aquarium, concrete, asphalt, water, cloth | ©︎ Taichi Moriyama
洗濯機というものから、生活をする上で出る廃水というイメージをして、その廃水が流れて行き着く場所というのをイメージして、人工物を使ったアクアリウムを作っています。
水槽に沈んでいる石はどういうものなのでしょうか?
これは工事現場などで出てくるコンクリートガラ(くず)ですね。
なるほど。オープニングでお忙しい中、解説いただきありがとうございました!
という形で、以上をもちましてこれにてトークは終了となります。
一つ宣伝なのですが、今年も『MOTサテライト』を10月20日(土)〜11月18日(日)まで色々な会場で展示を行いますのでこちらもよろしくお願いします。
そちらも楽しみにしております。本日は長い時間、ありがとうございました!
森山:
森山:
河西:
河西:
河西:
藪前:
文・編集/折笠純(KANA KAWANISHI GALLERY)、青木岳