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『アキラトアリキノアラタナアリタ:現代陶芸としての有田焼』

トークイベント第二弾

「『現代陶芸』をかんがえる:伝統工芸と現代美術の摩擦が生み出す新しきもの 」

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撮影:吉楽洋平

日 時:2018年1月13日(土)17:00〜18:45

登壇者:鈴田由紀夫氏(佐賀県立九州陶磁文化館・館長)

        堀内奈穂子氏(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]キュレーター) 

     藤元明(アーティスト)

会 場:KANA KAWANISHI GALLERY

■登壇者プロフィール

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撮影:吉楽洋平

鈴田由紀夫(すずた・ゆきお)

 

佐賀県立九州陶磁文化館館長。1952年佐賀県生まれ。77年九州芸術工科大学卒業、79年同大学大学院修士課程を修了。同館学芸員を経て2010年から館長を務めている。共著に「伊万里青磁 (古伊万里シリーズ2) 」(古伊万里刊行会刊)、「古伊万里―見る、買う、使う 人気の和食器の魅力をさぐる (講談社カルチャーブックス)」(講談社刊)、共編に「色絵磁器 (やきもの名鑑)」(講談社刊)などがある。幕末から近代までの様式を一冊に凝縮させ、明治期の有田焼を網羅して紹介する「明治有田 超絶の美」(世界文化社刊)を監修。

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撮影:吉楽洋平

堀内奈穂子(ほりうち・なおこ)

 

特定非営利活動法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]キュレーター

エジンバラ・カレッジ・オブ・アート現代美術論修士課程修了。2008年より、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]に携わる。AITでは、展覧会やイベント、トークの企画・運営の他、教育プログラムMAD(Making Art Different)のレクチャラーを務める。ドクメンタ12マガジンズ・プロジェクト「メトロノーム11号 - 何をなすべきか? 東京」(2007年)アシスタント・キュレーター、「Home Again」(原美術館、2012年)アソシエイト・キュレーター、アーカスプロジェクト(2013年)ゲストキュレーター。2015年は、国際交流基金主催による展覧会「Shuffling Space」(タイ、2015年2月) のキュレーター、オークランドで開催される日本人作家の展覧会「Invisible Energy」(ST PAUL St Gallery、ニュージーランド、2015年2月)の共同キュレーターとして携わる。

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撮影:吉楽洋平

藤元明(ふじもと・あきら)


1975年東京生まれ、東京在住、東京藝術大学デザイン科卒業。1999年コミュニケーションリサーチセンターFABRICA(イタリア)に在籍後、東京藝術大学大学院を修了(デザイン専攻)。東京藝術大学先端芸術表現科助手を経て、社会、環境などで起こる制御出来ない現象を社会へと問いかける展示やプロジェクトを立案・実施。様々なマテリアルやデジタル制御を組合わせ作品化している。主な個展に『HEY DAY NOW』(コートヤードHIROOガロウ/KANA KAWANISHI GALLERY企画/2015年)、『ENERGY TRANSLATION NOW』(UltraSuperNew Gallery/KANA KAWANISHI ART OFFICE企画/2014年)、『PEAK OIL』(CAPSULE Gallery/2014年)等。主なグループ展に『ソーシャリー・エンゲイジド・アート:社会を動かすアートの新潮流』(アーツ千代田3331/2017年)、『この都市で目が覚めて』(HIGURE 17-15 cas/2016年)など。都市に生じる時空間的な隙間を活用するアートプロジェクト「ソノ アイダ」を主宰。

河西香奈(以下:KK):

本日は寒い中お集まりいただきありがとうございます。今回は『アキラトアリキノアラタナアリタ:現代陶芸としての有田焼』の第二弾のトークイベントを開催させていただきます。宜しくお願いします。本日は佐賀県立九州陶磁文化館館長の鈴田由紀夫さんとNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]のキュレーター、堀内奈穂子さんにゲストとしてご登壇いただき、作家の藤元明とトークを行っていただきます。まずは藤元に今回展示されている有田焼のシリーズがどのような背景で制作されたのかをプレゼンしていただきます。

 

堀内さんは、ご所属されるAITでイギリスのカムデン・アーツ・センターから現代陶芸の作家を日本に招聘された実績がございます。そのプロジェクトについて、今回は堀内さんからお話いただきます。そして、アーティストたちがこのように現代美術として陶芸作品を世に発表している流れについて、鈴田さんがどのようにお感じになられるのかをお伺いできればと思っております。

 

積極的な意見交換を通して議論を活発にできればと思いますので、疑問がありましたら聞いていただいてもいいですし、自由に各々の考察を深められる会にしていただきたいなと思います。それではまず藤元さん、よろしくお願いします。

 

■藤元の有田焼作品が生まれた経緯

藤元明(以下:AF):

藤元の有田焼作品が生まれた経緯

 

よろしくお願いします。そもそも僕がどのようにこの作品シリーズに至ったのかを説明していきたいのですが、リバースプロジェクトという会社があり、そこでデザインプロジェクトとしてARITA PORCELAIN LABさんの新商品開発を担当することになったのが有田焼に接点を持つきっかけでした。その当時は美術作品としてというよりかは、商品開発として関わっていたのですが、今回展示している作品にもつながることである、倉庫でデッドストックが眠っているという事実をその時初めて知りました。まず有田焼のことを詳しく聞いていくと、まずは400年の歴史がある産業であることだとか、このプロジェクトで関わったARITA PORCELAIN LAB*1さんでは型を用いて作るということ、大きな窯を持っているので大きなサイズの作品を作れるということ、伝統的な有田焼のデザインをシンプル化させて現代的なテーブルウェアを作ったりすることで成功を収めているブランドである、ということがわかりました。

 

また、詳しく製造工程を聞いたところ、手描きのように見える柄も、実は転写シートを使うことで複製物を大量生産することができるということがわかりました。しかし、昔から用いられている手法のため、転写シートそのものがたくさん余ってしまっているという状況がありました。そこで、転写シートをコラージュして、現地で制作していきました。柄同士を重ねたり柄を切って使うようなことは、職人からすると普通であればあり得ない行為なのですが、現場では「面白いんじゃないか」と受け入れられ、作品が出来上がっていきました。この発想を基にデザインを展開していったのが「TIME MACHINE」というプロジェクトでした。

 

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TIME MACHINE

このプロジェクトに取り組んでいく中で、転写シートそのものが膨大に余っているのであれば、それを用いて作品が作れるんじゃないかと思うようになりました。そこで個人的にこの窯元の7代目の松本さんに「作品を作らせてください」とお願いしたところ「いいですよ」という返事をもらえて、この作品シリーズを作ることになりました。

 

こうして柄をレイアウトしながら制作していったわけですが、当時はまだ有田焼が何なのかを深く掘り下げていたわけではありませんでした。倉庫のデッドストックから器をピックアップし、転写シートを見せてもらって、「こんな柄も昔は流行ったんだよね・・・」というようなことを教えてもらいながら柄を選んでいきました。例えば今回展示している作品でいえば、龍の柄が大量に余っていたので、「ヤマタノオロチ」という8本首の伝説の龍を作ってみたりと、スタートアップの段階では半分ふざけたような感覚で作っていましたね。だんだん柄の重ね方のアレンジが広がっていき、同じ柄をパターンとして重ねたり、モンタージュのように切り貼りして柄を作ったり、柄の判別がつかなくなるまで重ねたり、という手法に発展していきました。

 

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Fountain_yamata no orochi, 2017

次は、逆に昔の絵付けされた皿の柄を打ち消すという手法を始めました。プラチナを使って700度で焼くと鏡面に仕上がる、ということを窯元から聞き、プラチナを用いてもともとの図柄を打ち消す《Cancel》シリーズが生まれました。このプラチナがやたらと高価で、制作後に目玉が飛び出るくらいの金額で請求が来た、というのがこのエピソードのオチです(笑)。

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Cancel plate #1, 2015

転写シートを裏返して貼るということも試みました。職人さんはもちろんやったこともないし、やろうと考えたこともなかったそうなのですが、裏返しで貼ることで鏡像を生み出すことができるので、この方法もシリーズ化させました。この試みを通してわかったことが、裏返しでもうまく定着する柄と、定着しないものがあるということでした。

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Fountain plate_white #2, 2017

僕は『NEW RECYCLE®』というプロジェクトに長いこと取り組んでいますが、陶器は何千年も残るような強い素材ですよね。逆に言えば、割れた陶器というのは有田焼の窯元に限らず世界中に存在していて、それらは土に還ることもなくずっと残っていきます。そんな割れた陶器をなんとか再生できないかと考え、そこから始まったのがすでに割れた器に絵付けをした作品シリーズです。断面にも絵を入れてストライプの方向を変えることで、柄を後からつけたことを強調しています。後から絵付けをするという行為に斬新さとインパクトがあり、「レストランで使いたい」という声がかかることがありました。ただ、実際に食器として使うにしては断面が鋭利で危険なので断念されました。そんな中で僕としては美術作品として成立するように考えて取り組んでいます。

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Fragment_stripe #2, 2015

壺のシリーズ《Osmosis》は、一度白く焼成された壺に呉須(ごす)でドロッピングのような手法で柄を描き、もう一度1300度の本焼きで焼成し直すという工程で作られています。このように焼くと、上から塗布した呉須が陶器表面にあるガラス質の塗膜の中に沈み込んでいくので、また表面がガラス質に戻ります。これは本焼きを二度するということで偶然発見された現象で、窯元も面白がってくれました。普通であれば素焼きの段階で呉須を塗ると染み込んでしまうので滑ったような表現ができないのですが、先ほど言ったように一度焼いているため表面がガラス質のため、エアスプレーで呉須を吹き付けていくと表面に液体を滑らせてドローイングするということが可能になります。

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Osmosis_Full of Tears series, 2017

このように制作をしているのですが、僕の作ったものが器の形をしていることで工芸という重力圏から抜け出すことができないという現状があります。工芸の「この皿の形なら幾ら」と価格を判断する感覚と、美術作品として見て価格を判断する感覚にはギャップがありますが、僕としてはこの活動そのものは美術として提案したいと考えています。「実用的なお皿」という工芸的な作品ではないということを証明したくて、あえて実際に使うことができない形に作り直すということをやっています。その一つとしてポットなど素焼きの状態のものを釉薬で接着し、焼成した作品が生まれました。さらに、今回新しいシリーズ《Conservation》として、釉薬接着をしたものに絵付けを施した作品を発表しています。

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Conservation_pot, pot #2, 2017

また、新しいチャレンジとして壺などを無理矢理組み合わせ焼成していき、それぞれの境界を超えて混ざっていくように絵柄を施した作品も制作しました。

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Merging_vase, vase, vase, 2017

以上が、僕が約4年ほどかけて取り組んできたこのシリーズの紹介です。

 

現代陶芸としてアートギャラリーで作品を発表することが多くなってきているのですが、僕は大学で陶芸を勉強したわけでもなく、ろくろを回して作っているわけでもなく、陶芸作家とは異なるアプローチやプロセスで作品を制作しているので、僕の作る作品は果たして「現代陶芸」にあたるのか、というのが自分が持つ疑問です。僕は工場(こうば)で大量生産の工程の中に僕のやりたいことを差し込んで作っているので、他の陶芸作家とは根本的に違いますよね。また同時に、芸大の陶芸科を卒業して、陶芸を続けている人たちは現代陶芸作家と呼べるのか、というのも疑問に思います。彼らの場合は少なくとも工芸として器屋や工芸のギャラリーで販売され流通しますが、自分は果たして陶芸作家の部類に入るのか、というのが前回のトークイベントでの話の軸でした。

 

今日は鈴田館長がいらっしゃっていますが、実は僕が有田焼の作品を制作する前に勉強するために読んでいたのが鈴田さんの著書『明治有田 超絶の美』でした。基本的に有田焼は昔から国や政治の動向に沿って作られていったのですが、天皇や藩主に献上するために作られていたので、もちろん当時はマスプロダクションというよりは、一つ一つ手作りでした。そんな中、後に一般に向けて普及していくことになります。さらに現在では、有田焼の市場は縮小している状況だと思うのですが、それはどのような原因で起こっていて、今後どのようなことが起こり得るのかを鈴田さんにお伺いしたいです。

■制御出来ない現象とは

制御出来ない現象とは

鈴田由紀夫(以下:YS):

AF:

今日藤元さんと初めてお会いしたので、今日は私からもお聞きしたいことがたくさんあります。藤元さんのプロフィールを拝見すると、けっこう難しいことが書かれていますね。「社会、環境などで起こる制御出来ない現象を社会へと問いかける展示やプロジェクトを立案・実施」とありますが、「社会、環境などで起こる制御出来ない現象」というのは具体的にはどういうことなのでしょうか?

 

例えば有田焼ならデッドストック生まれてしまう状況などをテーマにすることですね。例えばユニクロは大量に服を作って、在庫管理が大変なので余剰分を燃やしていますが、有田焼の場合も余剰品を埋めるか倉庫に積んでいくということが起こっていて、そういう現象を取り上げています。温暖化などの自然環境の問題であれば人間たちが制御できていない状況というのが明らかなのですが、人間社会の中にも当事者たちでは制御できない状況が生まれてしまっているというのが事実です。デッドストック以外にもいろいろな現象があるのですが、そのようなトピックに僕は興味があります。2020年の東京オリンピックを例に挙げても、皆が異常に盛り上がりを見せはじめて、よくわからないことが起こり始めてますよね。そういう現象を取り上げるのが好きですね。

 

「制御できない現象」という言葉を自分なりに解釈してみようとすると、抽象的に言えば時代の流れのことなのかなと思っていました。自分の作りたいものがあるのに、時代の潮流に乗らなければならず、自分の力ではどうにもできないことなのかなと思います。今後どのような方向性でやっていけば良いのかなど、窯元や陶芸家から助言を求められることが多いのですが、私はどちらかと言えば焼き物の歴史のことを考えてきたので、正直私だってよくわからないです。「公募展で入選するにはろくろの作品より板ものの方が良い」みたいなことくらいはわかりますが、全体のこれからの流れはわかりません。

 

百年単位で有田焼産業を振り返っていくと、始まった当初は需要が無限大にありました。どんな人でも必要なもので、現在でいうITのような最先端の産業でした。その後どこでも磁器が作れるようになっていくと状況がどんどん変化していって、大量生産だったら海外に負けますし、社会の中で有田焼が果たす役割が変わっていきました。そして現在は、元々工業だった有田焼はアートの部類に入り始めています。職人だった人がアーティストと呼ばれるようになっていくというこの流れは理解しているのですが、では全員が陶芸家やアーティストになれるのかというとそうではなく、ではTOTOなど衛生陶器などで工業の方面に徹するかというと、そうでもないですよね。そんな状況の中でどうするかが今の課題です。

 

「制御できない現象」とは何なのでしょうか?制御できない何かって、面白いなと思って。

 

例えば絵の具が混ざりつつあるものを絵画にすることを僕らは「現象系」と呼ぶのですが、筆で描くような制御をするのではなく、自然に任せて形作ったり、小さな粒を積み上げて形にするもので、意図的にデザインし切れないものを指します。そういう作品はある一定の層には人気のある部類ではあります。人間が制御できないものを「格好いい」と思う感覚を持っている人がいて、僕もその一人だと思います。僕が制作する時には現象のスケールは関係なくて、例えば細胞単位の物理的な現象を社会規模に置き換えられるんじゃないか、と考えるようなことが僕の中で基本的なテーマになっています。

 

どんな個性的な人でも、その時代の歴史の中で空気を吸っていれば、流れに乗っていることになると思います。その流れの中にいて、自分がいるその流れ自体を意識しているかしていないかは大きな差ですよね。

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